おおらかなオランダの風を感じる、世界初の発想。 MVRDVが手がけた、アムステルダムのロイドホテル。
オランダ最大の都市であり、町中を走る運河が美しい、水の都アムステルダム。
再開発が進む東側の港湾エリアに、2004年、オープンしたロイドホテルは、世界中の人が行き交う港町らしい、斬新かつ柔軟なアイデアで作られたホテルだ。
1つ星から5つ星までの部屋を備える、世界初のホテル。
煉瓦造りの重厚な建物は、1921年、ロイド船舶会社が900人収容のホテルとして作ったものだ。1935年にロイドが倒産したあとは市の所有となり、ナチスドイツに追われたユダヤ人を匿うキャンプ、刑務所などを経て、1989年までは少年院として使われていた。
その後、アーティストのスタジオなど、様々な歴史を経て、2004年、オランダの建築家集団MVRDVの手によってホテルとして再生。そのコンセプトは、1つのホテルの中に1つ星から5つ星の部屋を作るという、全く新しいものだった。
国籍も年齢も異なる人が、ひとところに集まる。
MVRDVは、1993年にロッテルダムで結成された、オランダ現代建築を代表する建築集団。
国土面積が小さく住宅密度が高いオランダだからこそ生まれる、空間を最大限に生かす斬新なアイデア、奇抜なようでいて周囲の景観や歴史、機能を綿密にリサーチした都市計画や建築で知られる。
全てが異なるサイズとインテリアの全117室。しかし、注目したいのは、1つ星から5つ星まで、全てのカテゴリーの部屋を同じフロアに混在させているという点だ。
そして中央には、地階から屋根まで吹き抜けの大きなパブリックスペースを作った。
「大会社のCEOと、若いバックパッカーが同じ場所をシェアする。国籍も年齢も、バックグラウンドも異なる人たちが文字通り一堂に集まり、出会うーそれこそが、このホテルのコンセプトなんです」とプレス担当はにっこり。
117室、オランダデザインがいっぱいの、全て異なるインテリア。
1つ星は、バス・トイレは共有だが、そのぶん部屋が広く感じる無駄のない作り。
2つ星は、デザインはそれほど凝っていないが、逆にお客の手に委ねられている、とも言える。
3つ星は、広めの空間を、オランダの有名デザイナーが手がけている。
4つ星は、歴史的な建築を生かし、かつモダンなデザインが魅力。
5つ星は、7人用ベッド(!)がある部屋や、100人収容の会議室としても使われる部屋など、広さもさることながら、個性豊かだ。
プラットフォームの役割を果たすカフェレストラン。
レセプション部分はいたって小さく、カフェレストランになっている吹き抜けのパブリックスペースへとつながっている。
地元の素材を使った料理が評判のこのレストランは、朝食ブッフェがアムステルダムっ子にも人気。食事だけでなく仕事場として使っている人も多い。宿泊客だけでなく様々な人が集まるプラットフォーム的な役割も果たしているのだ。
家具はアンティークから最新デザインまで全てがオランダの作家の手になるもので、50人以上が関わった。ランプなどはレストランの一角にあるショップで販売もしている。
世界中のクリエイターの交流の場に。
また、「ホテル&カルチュラルエンバシー」という名前のとおり、世界各国のクリエイターたちに、発表や交流の場も提供している。
階段の壁には、ロイドホテルの歴史を語る写真などの展示が。ホテル全体を使ったイベント、講演会やコンサートなども開催。2016年からは、日本の工芸品やプロダクトを紹介する「MONO JAPAN」の会場ともなっている。その時に作られた茶室は、客室の一つに加わった。
お客も、デザインに参加。おおらかな雰囲気に包まれて。
空間を広く使うための工夫もそこここに見られる。
部屋にはベッド以外の家具や収納がほとんどなく(グランドピアノが置かれている部屋など例外もあるが……)、その代わり廊下に置かれた家具を、好きなように部屋に持ち込み、使ってもよい。
お客は、自分の好きなように、部屋をデザインし直すことができるのだ。
デザインホテルと肩肘を張ることもなく、誰でも受け入れてくれる、文字通り、風通しのよい作り。
全てにおいて、まさに、アムステルダムという街を体現するホテルといえるだろう。
Lloyd Hotel & Cultural Embassy – ロイドホテル&カルチャラルエンバシー
TEL : +31(オランダ) 20-5613607
URL : http://www.lloydhotel.com/
E-mail : [email protected]
価格 : (シーズン、部屋によって変動あり)一泊一室 65€〜
住所:Oostelijke Handelskade 34 , Amsterdam, 1019 BN, Netherlands
text by Hideko Kawachi