建築家が手がけた「時間をつくる家」は、箱型フォルムの外観と帰宅動線が印象的な住まい
家を美しくデザインするだけでは、豊かな暮らしは生まれない。どれほど洗練された空間があっても、毎日の生活が慌ただしく、家族の時間が失われていくのであれば、家は本来の役割を果たせていないと言えるでしょう。
建築家が手がけた「時間をつくれる家」は、そんな問いかけからスタートしました。
箱型フォルムが街に刻む、静かな存在感

街に対してどのような顔を見せるか。外観のデザインもまた、この住まいの思想を静かに語っています。
外壁に採用されたのは、ブラウン塗り壁仕上げです。温かみのある落ち着いたトーンが、シンプルな箱型のボリュームに柔らかな表情を与えています。装飾を一切排除したフラットな壁面は、時間が経つほどに風合いを増し、街並みに自然と溶け込みながらも独自の存在感を放ちます。側面には縦張りのガルバリウム鋼板が採用されており、正面の塗り壁とのコントラストが建物に軽やかなリズムをもたらしています。

屋根はフラットに見えるキューブフォルムで構成されており、上空に向かって迷いなく切り上がるシルエットが清潔感を印象づけます。立面図に示された最高高さ6,680mmというコンパクトなボリュームは、周辺の住宅街に圧迫感を与えることなく、凛とした佇まいを保っています。基礎高400mmが建物をしっかりと地面から持ち上げ、外観のプロポーションに安定感と品格を添えています。
正面の開口部は意図的に最小限に絞り込まれています。1階には横長のスリット連窓がひとつ、壁面の上部にさりげなく配置されているのみです。これはプライバシーをしっかりと守りながら、室内には必要な採光と通風を確保するための合理的な判断です。一方、南面の2階には大型の開口部が設けられており、外から眺めると「1階は閉じ、2階は開く」という構成が明快に読み取れます。

アプローチもまた丁寧に設計されています。砂利を敷いた前庭には、アガベなどのドライガーデンプランツが植えられており、低メンテナンスながら個性的な表情をつくり出しています。コンクリート打ち放し仕上げの独立した門柱が来訪者を迎え、玄関へと続くステップのラインと呼応して、シンプルで洗練されたアプローチを演出しています。
敷地の右手には2台分の駐車スペースが確保されており、日常の使い勝手にも配慮された配置計画となっています。住む人の暮らしを支えるための実用性と、街に対して美しくあろうとする意志が、外観のすみずみに宿っています。
すべては「帰宅動線」のために

玄関を入ると、まず目に飛び込むのはゆとりのある土間空間と、壁面に沿って広がるシューズクロークです。L字型に配置された棚には靴を整然と並べることができ、収納力と使い勝手を両立しています。ダウンライトがやわらかく足元を照らし、帰宅した瞬間から気持ちが落ち着く雰囲気をつくり出しています。玄関は家族の「オン」と「オフ」を切り替える最初のゲート。だからこそ、余裕のある設計が求められます。

洗面室は、ワイドなカウンターと三面鏡を備えた実用的なつくりになっています。高窓から自然光が差し込み、外部の視線を気にせず明るさを確保できる点が印象的です。ダークトーンのキャビネットとナチュラルな木床の組み合わせが、機能的でありながら落ち着いたインテリアを演出しています。

洗面室の隣にはバスルームが配置され、脱衣・入浴・洗濯という一連の家事がひとつの動線上でスムーズに完結します。さらにその先にはウォークインクローゼットが隣接しており、入浴後の着替えから翌日の服選びまで、すべてが短い動線でつながっています。

ウォークインクローゼットは余裕のある広さを確保。ハンガーパイプが両壁に渡り、衣類をたっぷりと収納できます。天井からの丸形シーリングライトが空間全体を均一に照らし、使い勝手のよいウォークスルー型の動線を実現しています。

1階には2つの個室(洋室)も設けられています。落ち着いたアクセントウォールと自然素材の木床を組み合わせた空間は、シンプルでありながら居心地のよさを感じさせます。必要なものだけを置き、何もない時間を楽しめる部屋として設計されています。

トイレもまた、細部にまでこだわりが光ります。グレートーンで統一された壁面と、スッキリとしたフォルムのウォシュレット一体型便器が、ホテルライクな雰囲気を醸し出しています。ただ機能的なだけでなく、毎日使う空間だからこそ、心地よさにこだわっています。
オンとオフ、そして余白の時間
この住まいに流れるのは、「家事を素早く終わらせ、残りの時間を自分たちのために使う」という思想です。帰宅してからの動線、朝の身支度の流れ、料理から片付けまでの動き。すべてが計画的に設計されているため、日常のルーティンに費やす時間と体力を最小限に抑えることができます。
その分の時間は、家族で過ごすための時間に。あるいは自分だけの趣味や休息に。「時間を大切にすることで豊かさをもたらす」というコンセプトは、設計のあらゆる場所に息づいています。
後編:建築家が手がけた「時間をつくる家」は、 暮らしの動線から生まれる、豊かな余白を生む(4月16日 公開予定)