二俣公一が手がけた、香川県・豊島にある海に向かって“食の居場所”をひらく「海のレストラン」
香川県・豊島の海辺に建つ「海のレストラン」は、二俣公一/ケース・リアルが手がけた、島の風景と食の時間を重ね合わせるレストラン建築です。瀬戸内国際芸術祭をきっかけに島を訪れる人が増えるなかで、ここは“観光客のための飲食店”に留まらず、島に暮らす人にとっても日常の延長として使える「食の拠点」を目指して計画されました。白いアーチが連続する架構と、光をやわらかく透かす屋根によって、海風や潮の匂いまでもが空間の一部になります。料理を味わうだけでなく、海を眺め、時間をほどくための場所として非常に魅力的です。
豊島の海辺にできた“食の拠点”

海のレストランの特徴は、建築が担う役割が「料理を提供する器」にとどまらないところにあります。瀬戸内の島々は、アートや観光の文脈で語られる一方、当然ながらそこには暮らしがあります。季節で変わる仕事のリズムがあり、島の外から来る人と内側にいる人が交差する時間もあります。海のレストランは、その交差点を“食”で支える場所として立ち上がっています。

さらに、この施設には「公衆キッチン(Public Kitchen)」という考え方が含まれている点も重要です。食べるだけでなく、つくることや、集まることを受け止める機能が視野に入ると、レストランは単なるサービス空間ではなく、島のコミュニティを支える場になります。旅の途中で立ち寄る人にとっては、島の空気を最初に体に入れる入口になり、島の人にとっては、海を前にしたいつもの居場所になる。海のレストランは、そうした二重の開かれ方を建築として成立させています。
半屋外テラスがつくる、海と一体化するダイニング

建築を象徴するのが、連続する白いアーチ状の架構です。壁で囲い込むのではなく、柱と梁のリズムで空間の輪郭をつくることで、視線は常に海へ抜けていきます。座る位置によって水平線の切り取り方が変わり、同じ場所にいても体験が単調になりません。建築は“眺め”を固定せず、滞在の中で風景が少しずつ変化する余白を残しています。

屋根には透過性のある素材が使われ、直射日光を拡散させながら、外の明るさを室内へ滑り込ませます。半屋外の領域が多く取られているため、海風の流れ、湿度、匂い、音が自然に混ざり合い、空間そのものが「環境の編集」として完成します。冷暖房の効いた完全な室内では得られない、季節の手触りが残る食体験。海のレストランが心地よいのは、風景を“背景”として扱うのではなく、身体が受け取る環境として組み込んでいるからです。
“建築=風景のフレーム”としてのインテリア

海のレストランのインテリアは、装飾で成立しているのではありません。むしろ、風景を受け止めるための「フレーム」として、最小限の編集で組み立てられています。白い架構がつくる清潔な輪郭に対して、床の赤みが空間に温度を与え、冷たさに寄りすぎないバランスをつくります。海と空の青、日差しの白、夕方の橙、そして床の赤が重なることで、時間帯ごとに空間の印象が変わっていきます。
ここで主役になるのは、料理や家具だけではなく「滞在の質」です。視線の基準として水平線が常にあり、会話のテンポは自然にゆるやかになります。食事が終わってもすぐに立ち上がるのではなく、少しだけ海を見続けたくなる。その“余韻”を許す設計が、この場所を特別にしています。二俣公一/ケース・リアルが得意とするのは、派手な演出ではなく、場の使われ方が自然に整っていく編集です。海のレストランでも、建築が前に出るのではなく、風景と人の間に静かな秩序をつくり、食の時間をほどいていきます。
海辺の食事を、島の体験へ変える建築
豊島の「海のレストラン」は、海の景色を眺めながら食べる場所であると同時に、島の暮らしと旅の時間をつなぐ“食の拠点”として設計されています。白いアーチの反復がつくるリズム、光をやわらかく透かす屋根、半屋外の境界が生む風の通り道。そうした建築的な要素が重なり、料理はただのメニューではなく、風景と結びついた体験として記憶に残ります。豊島を訪れるなら、作品鑑賞の合間にこの場所で立ち止まり、海と光の中に身を置いてみてください。島の時間が、食事という日常の行為を通して静かに整っていきます。
海のレストラン
営業時間:11:00~14:30/18:00~20:00(夜営業は金・土・日曜日のみ)
URL:https://il-grano.jp/umi/
住所:〒761-4661 香川県小豆郡土庄町豊島家浦525−1