
目[mé]が空き家そのものをアートにした十和田市現代美術館「スペース(space)」
青森県十和田市は、現代アートが街の随所にちりばめられた魅力的な街です。その中心となる十和田市現代美術館から少し離れた場所に、ひときわ異彩を放つ古い建物があります。そこには、現代アートの第一線で活躍するアーティスト集団「目[mé]」が手がけた驚くべき作品が隠されています。その作品の名は「スペース(space)」。十和田市が抱える「空き家問題」をテーマに、建物そのものをアートへと昇華させたこの作品は、訪れる人々に強烈なインパクトと、これまでにない視点を与えてくれます。
「異質なものの共存」が生み出す新たな視点
展示室そのものが作品となった「スペース」は、古いスナックの建物と、真新しい美術館のような空間という、全く異なる二つの要素が共存する様子が最も印象的です。建物の2階部分に設けられたその白い展示室は、まるで古い建物の中に異世界が紛れ込んだかのようです。外から見ると、古びた窓や床は唐突に切り取られ、新たな空間が無理やりねじ込まれたかのようにも見えます。
この、それぞれが持つ歴史や文脈を一切混ぜ合わせることなく、ただそこに存在させるというアプローチは、私たちが普段当たり前だと思っている「空間」や「建物」の概念を揺さぶります。古いスナックの床に残る生活の痕跡と、まっさらな白い空間の対比は、過去と現在、記憶と創造、日常と非日常という、二つの世界を同時に私たちに示唆しているかのようです。
時空を穿つアート、目[mé]が十和田に刻んだ「スペース」
この作品が単なる「リノベーション」と一線を画すのは、建物の持つ時間性をあえて破壊し、再構築している点にあります。通常、古民家再生やリノベーションでは、建物の歴史や趣を尊重しながら新しい価値を付加することが一般的ですが、「スペース」はそうした常識を覆しています。目[mé]は、建物の持つ「時間」を切り取り、まるで別の場所から持ってきたかのような空間をそこに埋め込むことで、建物そのものを一つの彫刻作品へと変貌させています。
それは、十和田市に刻まれた歴史のレイヤーを、アートの力で強制的に更新する試みともいえます。この作品は、十和田市現代美術館の「屋外展示作品」として、街に新たなアートの息吹を吹き込んでいます。空き家という、ともすれば忘れ去られてしまう存在に、再び光を当てることで、街の記憶を呼び起こし、同時に未来の可能性を示しているのです。この「時空を穿つ」ような大胆な手法は、私たちに「建物とは何か、空間とは何か」という根源的な問いを投げかけてきます。
「美術館の窓」が映し出す街の記憶とアートの未来
作品の大きな見どころの一つは、展示室の大きな窓から外を眺める体験です。この窓のその先に広がる風景は、美術館の周りの整然としたアート広場ではなく、古くからの商店街や民家が立ち並ぶ十和田市の日常の風景です。この対比が、作品に深みを与えています。美術館という「非日常」の空間から、日常の「街」を眺めることで、私たちは見慣れた風景を新鮮な視点で見つめ直すことができます。
この「窓」は、作品と街、アートと日常をつなぐ役割を果たしているのです。さらに、この作品は単なる鑑賞の対象に留まらず、十和田市が抱える空き家問題や街の活性化といった、社会的なテーマにもつながっています。目[mé]は、アートを通じて街の記憶を呼び起こし、新しい価値を生み出すことで、街の未来を考えるきっかけを提供してくれています。この作品は、単なる「アート作品」ではなく、街そのものと対話するための「装置」だと言えるでしょう。
アートと街の記憶を鮮烈に対比させる「スペース(space)」
目[mé]の作品「スペース」は、古いスナックの空き家と現代的な展示空間を共存させることで、アートと街の記憶を鮮烈に対比させます。このユニークな手法は、十和田市の日常風景に新たな視点をもたらし、空き家問題や街の未来について考えるきっかけを与えてくれる、示唆に富んだ作品です。
space(十和田市現代美術館サテライト会場)
開館時間:10:00~17:00
休館日:月曜日
URL:https://towadaartcenter.com/
住所:〒034-0083 青森県十和田市西三番町18−20