建築家・神谷修平率いるKAMIYA ARCHITECTSによる、“織と人が交わる”老舗織元のショールーム「ORIBA」

デンマーク、日本で実績を積んだ建築家・神谷修平。彼が率いる建築設計事務所「株式会社カミヤアーキテクツ」では、「世界に感動をゆり起こすクリエイティブな建築設計組織」をビジョンに、空間設計に限らずさまざまなクリエイティブでクライアントの課題解決を目指したソリューションを提供しています。カミヤアーキテクツが手掛けた「ORIBA」は、博多織の老舗織元「西村織物」の工場の一部を改装して生まれたショールーム。織物の製作の様子を文字通り目の当たりにできる、伝統工芸への理解が深められる貴重な空間です。

現存する最古の博多織織元のショールーム

Photo : Yuki Katsumura

西村織物は幕末期の1861年創業で、現存する最古の博多織の織元。かつては力士の化粧まわしなどを織っていたことで知られています。2023年6月に福岡市中心部に開業した高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」の内装に博多織を提供するなど、伝統の技を生かしながら新たな取り組みを続けています。

織と人が交わる場をつくる

Photo : Yuki Katsumura

プロジェクトは従来の呉服領域を超え、アートやインテリアなど織物の可能性に挑戦する西村織物の魅力を発信し、“織と人が交わる場を作りたい”という想いから始まりました。

Photo : Yuki Katsumura

当初、工房とは別の棟を改修するという要望だったものの、全長45mの工房で30人以上の職人が機織で織物を作る光景に、彼らのモノづくりの根幹を伝える大きな価値を感じた神谷は、この価値を伝えられるように、工場の資料室に使っていた一角を改修し、「ショールーム+オープンファクトリー」とする提案をしました。

Photo : Yuki Katsumura

神谷のプランには大きく4つの要素が組み込まれました。

手織り機の昇華

Photo : Yuki Katsumura

かつて使われていた手織り機を活用し、大きな展示テーブルとして再生利用。

Photo : Yuki Katsumura

細かい傷や歪みなどの歴史の痕跡を残しながら現代的なガラスと合わせた、このプロジェクトを象徴するアイコンとなりました。

工房をフレーミングする

Photo : Yuki Katsumura

エントランスホールからは木建具の連続窓によって工房全体が水平にフレーミングされます。

Photo : Yuki Katsumura

働く職人ひとりひとり、動く織機のひとつひとつが洗練されたアートのようにも見える、「ORIBA」を象徴するスペースです。

Photo : Yuki Katsumura

新旧のコントラストが、フレーミング効果とこの工房の良さを引き立てています。

織を引き立てる色・什器

Photo : Yuki Katsumura

内装には織物とサンプル比較を何度も重ね、絹を一番引き立てるグレーを採用。

Photo : Yuki Katsumura

また、什器は既存と影で縁を切ることで一層抽象性をもたせています。

オリジナル家具

Photo : Yuki Katsumura

西村織物のマテリアルを用いて3つの新たな家具プロダクトとなる、TANソファ、TANランプ、糸巻きスツールを開発。

Photo : Yuki Katsumura

特にTANソファは反物を約5倍にした形状で、座ることもできるうえ、触って博多織の質感の良さを存分に感じられるプロダクトとなっています。

Photo : Yuki Katsumura

建物ではそのほか、ザ・リッツ・カールトン福岡で使用されている博多織のレプリカなどの展示に加え、博多織のアートパネルや、アートとの融合に挑戦するRラインシリーズの帯、博多織の小物、アップサイクルブランド「ObitO」のアイテムなどの展示・販売スペースも用意。多角的に伝統の技を鑑賞できる空間です。

伝統を語り継ぐ、織と人との交わりを生み出す空間

437年もの間、技術を紡いできた工房と、先端で織物の可能性を目指す新旧のコントラストを表現することで、「創造的保存」改修を目指した「ORIBA」。大きなガラス窓越しに広がる、機械が音をたてながら職人が行き交い、織物が完成していく様子は、日本のクリエイティビティの場として、これからも多くの人の心に刻まれていくでしょう。

西村織物ショールーム「ORIBA」
所在地 : 〒818-0061 福岡県筑紫野市紫7-3-5
開店時間 : 10:00-17:00 (最終入店: 16:30)
店休日 : 日曜日・祝日・第2第4土曜日
電話番号 : 092-922-7128 〈事前予約制〉
公式サイト : https://nishimura-orimono.jp/oriba