モダン住宅の先駆けとも言えるル・コルビュジエによる「ペサックの集合住宅」
ペサックの集合住宅は、「レマン湖畔の小さな家」や「クラルテ集合住宅」、「ラ・トゥーレット修道院」などと共に世界遺産にも登録されている17個のル・コルビュジエ建築の一つです。1924年に製糖工場の経営者であり、ル・コルビュジエの著作『建築をめざして』に共感していた製糖工場の経営者アンリ・フリュジェの要請で、工場労働者向けの住宅として建設されました。当初は135戸が建設予定だったものの、実際に建ったのは46戸だけ。実際にできあがった建築は、コルビュジエのこだわりによって建設費が跳ね上がり、労働者向けとしては高額な入居費になってしまったのです。
近代建築五原則を実践した郊外に並ぶ集合住宅
ボルドー中心部からバスで30分くらい、さらにそこから10分歩いたところにコルビュジエによる「ペサックの集合住宅」があります。この一帯を歩くと、箱型のヴォリュームやカラフルな壁の色の住宅が目に入ります。
コルビュジエはスケッチなどに箱型住宅が並ぶ都市景観を描くことがあり、ペサックの集合住宅はそれを実現させた稀有な例でもあるのです。コルビュジェはこちらの集合住宅においても近代建築五原則を実践。
「摩天楼の家」、「ぽつんと離れた家」「対になった家」、「アーケードの家」、「5点形の家」と「ジグザグの家」という6つの異なるタイプの住宅が現存しています。
施主のフリュジェは、シリーズで住宅を建てるというコルビュジエのコンセプトに惹かれていたものの、同時に彼に対してひとつひとつが異なる住宅を設計してほしい、と依頼。コルビュジエはモジュール化された設計の梁間の数を操作して、建物に変化をつけたのです。こうしてできあがったのが上記の6タイプを含む7つのタイプの住宅でした。しかし7番目のタイプには名前がなく、第二次世界大戦中の空爆の影響で破壊されてしまい現存していません。
個性的なカラーリングが特徴の住宅たち
家は1棟ごとにすべて異なっており、外壁のあざやかな色彩がその違いを際立たせながらも、統一感を生み出し、重々しいボリューム感を打ち消しています。これらの鮮やかなカラーリングは、当初設計したコルビジェの住宅の多くが白い外観でまるで角砂糖のように見えると思ったフリュジェが依頼したもの。個性的なファサードは施主の意向によるものなのですね。
外部に設置してある階段がアクセントになっていて、どの住戸にも屋上があります。全体的にはル・コルビュジエの住宅デザインがそのまま残っているものの、庭やエントランスなど独自のカスタマイズをしている住戸もみられます。2階建てや4階建てなど数種類の住戸デザインのパターンがあります。
カーブを描く屋根が特徴的な住戸や、ガレージや大きく庭が取られている住戸などスタイルはさまざま。
5原則が活かされた内部空間
近代建築の五原則のひとつである水平連続窓からは綺麗な並木道を見ることができます。ペサックの集合住宅の内部は、労働者向けの住戸として設計されたこともあって郊外の邸宅であるサヴォア邸よりも身近なスケール感でつくられているようでした。
3階にはバスルームと寝室が配されています。バスルームの側面には窓があり、さらにトップライトも設けられていて明るい印象のスペースとなっています。ミニマムなインテリアながら光の取り入れ方によって明るく開放的な雰囲気が感じられる室内空間です。
集合住宅でも感じられるコルビュジエの住まいづくりへの思想
「ペサックの集合住宅」は、コルビュジエのモダニズムらしい建築で、その後のデザインへの流れがわかりやすい住宅でした。労働者向け住戸といった用途でありながら、随所にみられるコルビュジエのこだわりが建築物としてのクオリティを高いものに、誰にとっても住みやすい空間とさせているのでしょう。
ペサックの集合住宅
開館時間:10:00~13:00/14:00~18:00
休館日:月・火曜日
URL : https://www.pessac.fr/a-decouvrir/tourisme-patrimoine/cite-fruges-le-corbusier-539.html
住所:4 Rue le Corbusier, 33600 Pessac, France