
「心が動く空間をデザインで届けたい」建築家の深瀬ヤスノリさん
設計事務所「blue flag architect office」の代表取締役で山口県出身の建築家・深瀬ヤスノリさん。全国の住宅をはじめ、宿泊施設など幅広い空間設計を手がけています。
今回は、そんな深瀬さんにご自身のことや、住宅作りのことなど、さまざまな角度からお話を伺いました。
建築家・深瀬ヤスノリさん
山口県出身の建築家・深瀬ヤスノリ。日本大学工学部建築学科卒業後、設計事務所などで経験を積み、2017年に「blue flag architect office」設立。「固定観念を超えた価値の創出」をテーマに、人の暮らしに深く寄り添う建築を多数手がけ、宿泊施設のディレクションなど活動は多岐にわたる。
“ときめく”かどうかを大切に
はじめに、深瀬さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「“ときめく”かどうか。これに尽きます。設計をする上で大切にしていることは、感情を抑えられないほどの感動があるかどうかをテーマにしていますね。『ここで過ごしてみたい』などと思わせてくれるような、心が動く空間をデザインで届けたいです」
好きな場所は実家の寝室
続いて、深瀬さんのお好きな場所や空間はどこでしょうか?
「実家の寝室です(笑)僕の部屋は西側に大きな窓がある部屋なのですが、西側ってネガティブな印象を持たれる方が多いじゃないですか。だけどうちの場合は、窓の外に木が何本か立っていて奥に田んぼがあるんですね。夕方になってベットに寝転がっていると、田んぼの水田に夕日が差し込み、それが反射をして影が天井をゆらゆらと動いているのを見て、ぼーっとするのが好きです」
家づくりで最も重視していること
深瀬さんは、多くの住宅を手掛けられていますよね。家づくりでもっとも重視することは、やはり感情が抑えられないほど幸せを感じるということなのでしょうか?
「そうですね、それを最終的に大事にしていくために、僕が大事にしていることは、“もの”や“こと”、あるいは“価値観”といった要素に向き合うことです。例えば、宿泊施設だったらオーナーさんが、どのような価値観を持っていて、僕はどう受け止めて形にするのか、というところを大切にしています。そのために“人”や、“もの”との距離感が重要だと思っています。いわゆる“間合い”がどれぐらいだったら心地がよいのかを一緒に探っています」
人の感情をどのように動かすのかという視点
宿泊施設もトータルで手掛けられていらっしゃる深瀬さん。宿泊施設は、日常とはかけ離れた空間であってほしいと皆さん思っていらっしゃると思いますが、その際に気を遣われることがあれば教えてください。
「住宅と宿泊施設の違いは、住み続けられるかどうか。ということだと思っています。住宅というのは、長く住み続けるということを前提に考えていくことが多いと思うんですけど、宿泊施設というのは限られた時間の中で非日常や驚きを届けられることを求められるんですよね。共通しているのは、そこで過ごす人がどう感じるのか、人の感情をどのように動かすのかという視点は同じなので、僕はそこを一番大切にしています」
深瀬さんの住宅に対する考え方について
深瀬さんは山口県を拠点にしながら、全国の住宅を手掛けていらっしゃいますが、土地柄や地域性によって住宅に対する考え方の違いや共通点はありますか?
「暑い・寒いなどの気候風土で、地域によって暮らし方の当たり前が少しずつ違うことは、僕自身も感じています。ただそれ以外で大切になっているのは、そういう経験や体験があったとしても、“その方がどのように暮らしていきたいのか”ということ。地域性よりもその人の価値観・感性を丁寧にすくい取っていくようなことが家づくりの大切なことかなと思います」
近年、住宅には性能だけでなくデザイン性への期待値も高くなっていると思うのですが、住宅を設計する中で、そういったバランスはどのようにお考えですか?
「僕にとって性能というのは、暑い、寒い、湿度など暮らしのストレスを減らすための安心の土台のような位置付けでいます。一方でデザインは心を動かしたり、暮らしていく中で喜びや誇らしさをもたらしていくようなアプローチなのかなと思っているんですよね。性能は、暮らしを守っていく形、デザインは暮らしを色付けをする、彩りを与えていくようなイメージで、どちらも欠かせないと思っています。どちらも大切にした上で自分がどんな距離感でそれらを見たいのかというところを見つめることが、僕はとても大切だと思っています」
40坪の異形地に建てられた平屋の家
深瀬さんが手がけた、こちらの40坪の平屋住宅。40坪であるにも関わらず、こんなに広く見えるんだと思ったのですが、その理由はどういったところですか?
「この土地は高台にあって、景色が抜けているところなんですよね。まずはそこを活かしたいという思いがありました。40坪なんですけど実は三角形の形をしていて、その特性を活かすことで、斜めに抜けていく視線を設計に取り入れやすくなったんです。というのも斜めに抜けていく視線は、真っ直ぐ見るよりも、1.3倍ぐらい広がりを見せてくれるんですね。土地の特性を活かして広く見せたりとか、広がりを感じられるようなことを提案させていただいた感じです」
一等貸しの宿泊施設「然10」のこだわり
長崎県にある一等貸しの宿泊施設「然10」。ここはどういったところにこだわりを持たれていますか?
「オーナーは、元々住宅として住まれながら、民泊としても貸してきたいという要望でした。どちらかというと一日一日を継続して過ごすというよりは、瞬間的に感動をしたいというオーナーの意向があったんですね。ですので、ずっとそこに住むというような暮らしを継続していくよりかは、瞬間瞬間を捉えて、この景色が本当に素晴らしいこと、こうしていきたいということをベースにして、ご提案させていただきました」
住まいの問いかたを問い続ける
深瀬さんの今後やりたいことについて教えてください。
「住まいの問い方を問い続けていきたいなと思っています。ここだけに住むとかではなく、いろいろな場所に行き、いろいろな感覚、今自分が欲しい感覚を手にするためにあそこに行ってみよう、みたいなのをシェアできる形ができたら豊かだし楽しいだろうなと思います」
Life is 距離
インタビューの最後、深瀬さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is 距離」と答えてくれました。
「自分が人生で大切にしているもの、人や場所、価値観でも、どんな距離感で向き合っていけるかというのをずっと探し続けていかないといけないんだなと思っているんです。近すぎると見えなくなってくることもあるし、あんまり遠すぎると、心も離れることもあると思うので、ちょうど良い距離というのを、人それぞれ、僕もそうですけど、探っていることがプロセス。そういうことが僕にとっての人生なのかなと思います」
「心が動く空間をデザインで届けたい」建築家の深瀬ヤスノリさん
「心が動く空間を届けたい」。そう語る深瀬ヤスノリさんの言葉には、建築という枠を超えて、人の感情や価値観に寄り添おうとする真摯な姿勢が込められています。そんな深瀬さんの建築は、今日も誰かの人生にそっと寄り添っていることでしょう。今後のご活躍にも注目です。