大阪・関西万博で建築家が手がけた「いのち」について学ぶための8つのシグネチャーパビリオン

2025年に開催される大阪・関西万博では、テーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現する8つのシグネチャーパビリオンが注目を集めています。各パビリオンは、第一線で活躍するプロデューサーと建築家が協働し、建築そのものが未来への問いを投げかける実験場となっています。今回は、それぞれの建築的特徴とコンセプトをご紹介します。

Better Co-Being/SANAA

建築家ユニットSANAAが設計を手がけ、慶応義塾大学 医学部教授の宮田裕章がプロデュースした「Better Co-Being」は、屋根や壁を持たない開放的な構造で、自然との共生を建築的に体現しています。シルバーに輝くキャノピーが森の中に浮かぶように設置され、風や光、音を取り込むことで環境と一体化。来場者は、空間を自由に移動しながら他者と出会い、多様な価値観と共鳴する体験ができます。建築が「つながり」や「共生」の可能性を問い直す場として機能する、未来志向のパビリオンです。

いのちの未来/遠藤治郎(合同会社SOIHOUSE)

「いのちの未来」パビリオンは、ロボット学者・石黒浩がプロデュースし、建築家・遠藤治郎が設計を手がけた、生命の進化と未来を探求する空間です。高さ12メートルの黒い外壁には水が流れ、自然と人工の境界を曖昧にする「渚」を建築的に表現。内部には、象徴的な筒状空間「まほろば」がそびえ、赤い耐震壁が構造を支えています。来場者は水のヴェールをくぐりながら、生命の起源から未来への旅に没入します。

いのちの遊び場 クラゲ館/小堀哲夫

「いのちの遊び場 クラゲ館」は、建築家・小堀哲夫が設計を手がけ、音楽家・中島さち子がプロデュースするパビリオンです。クラゲを模した半透明の膜屋根が特徴で、日射を抑制しつつ、生命の「ゆらぎ」を象徴しています。内部は「プレイマウンテン」「いのちのゆらぎ場」「いのちの根っこ」の3層構造で、中央には4,600本以上の吉野杉を用いた「創造の木」がそびえます。この木は粘菌アルゴリズムに基づき組まれ、解体・再利用が可能な設計です。建築と自然、テクノロジーが融合し、創造性を引き出す空間となっています。

null²/NOIZ

「null²(ヌルヌル)」は、建築家・豊田啓介が主宰する建築設計事務所NOIZが設計を手がけ、メディアアーティスト・落合陽一がプロデュースするパビリオンで、「いのちを拡張する」をテーマに掲げています。建築は、ミラー状の膜と有機的な曲線を持つ構造で、内外の境界を曖昧にし、来場者の感覚を拡張する空間を創出しています。内部では、最先端のテクノロジーとインタラクティブな展示が融合し、生命の可能性や多様性を体感できる設計となっています。

いのち動的平衡館/橋本尚樹

「動的平衡館」は、建築家・橋本尚樹が設計を手がけ、生物学者・福岡伸一がプロデュースし、「いのちを知る」をテーマに掲げています。建築は、生命の動的なバランスを象徴する有機的な形状で、生命発生の初期段階を意味する「エンブリオ」の愛称が付けられています。内部では、最新の科学技術を活用した展示が行われ、生命の仕組みや進化の過程を体感的に学ぶことができます。

いのちめぐる冒険/小野寺匠吾

「いのちめぐる冒険」は、建築家・小野寺匠吾が設計を手がけ、アニメーション監督、メカニックデザイナー、ビジョンクリエーターの河森正治がプロデュースし、「いのちを育む」をテーマに掲げています。建築は、鉄骨フレームとコンクリートパネルからなる2.4m立方のシンプルな構造体(セル)が集まった構成。1つの立方体を最小単位とする多彩なセル(細胞)が集合していのちが構成される様子を表し、コンクリートパネルは大阪湾の海水で練った新素材マテリアルを活用しています。内部では、植物や微生物などの展示を通じて、生命の多様性や共生の重要性を学ぶことができます。

EARTH MART/隈研吾

「EARTH MART」は、建築家・隈研吾が設計を手がけ、放送作家・小山薫堂がプロデュースしています。「いのちをつなぐ」をテーマに、地球規模の循環と共生を建築で表現しています。建築は、木材や茅を用いた有機的なデザインが特徴で、自然との調和を意識した空間が広がります。内部では、食や農業、環境問題に関する展示が行われ、来場者が地球の未来について考えるきっかけを提供します。また、地域の特産品や伝統文化を紹介するコーナーも設けられ、持続可能な社会の実現に向けた多様な取り組みが紹介されます。

Dialogue Theater –いのちのあかし–/周防貴之(SUO)

「Dialogue Theater – いのちのあかし –」は、映画作家・河瀨直美がプロデュースし、建築家・周防貴之(SUO)が設計を手がけています。このパビリオンは、奈良県十津川村の旧折立中学校と京都府福知山市の旧細見小学校中出分校という2つの廃校を移築・再構築したもので、木造校舎の趣を残しつつ、新たな建築として生まれ変わっています。建築は、エントランス棟、対話シアター棟、記憶の庭、森の集会所で構成され、シンボルツリーとして旧中出分校の校庭にあったイチョウの木が移植されています。内部では、来場者が対話を通じて互いを理解し、よりよい未来を共に創造することを目指す取り組みが行われます。建築と自然、そして人々の記憶が融合した空間は、持続可能な未来社会の実現に向けた新たな対話の場となっています。

建築が紡ぐ「いのち」の物語

大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンは、建築と思想、テクノロジーと感性が融合した空間です。各パビリオンは、独自のテーマと建築手法で「いのち」を表現し、来場者に深い体験を提供します。建築が語る「いのち」の物語を通じて、私たちは未来の社会や生き方について考えるきっかけを得ることができるでしょう。