
建築家・工藤浩平が手掛けた坂倉準三の集合住宅の一室をリノベーションした、静寂を宿す住まい「J邸」
建築家・工藤浩平による「J邸」は、1970年代に坂倉準三建築研究所が手掛けた集合住宅の一室をリノベーションしたプロジェクトです。既存の建築は、1・2階、2・3階がメゾネットで組み合わさる独特の構成をしており、「J邸」はそのうちの2・3階を占める住戸。時代を超えて受け継がれてきた建築の魅力を活かしながら、現代のライフスタイルに即した新たな住まいが誕生しました。
静けさと光を取り込む環境デザイン

都市の喧騒から少し距離を置いた穏やかな住宅地に位置するこの住まいは、周囲の緑と自然光を心地よく取り込む設計がなされています。開口部の工夫やレイアウトの最適化により、既存構造を活かしながら、光と風が柔らかく流れる空間が実現されています。
無駄を削ぎ落としたミニマルな外観

外観はシンプルかつ控えめなデザインで、コンクリートの外壁がスタイリッシュな印象を与えます。フラットな壁面に周りの木々の影が映り込み、無機質な素材感ながら柔らかな表情に。住まいとしての心地よさが外からも感じられます。
基礎を活かしつつ現代の暮らしにアジャスト

「J邸」は2階にLDKとファミリークローゼット、3階にベッドルームとワークスペースを配したメゾネット構成。建物自体がRC壁構造であるため、間取りの自由度は限られていたものの、素材や造作家具によって、オーナーのライフスタイルに沿った空間へと丁寧に整えられています。

1階のコンパクトな入り口から上がると、2階にはLDKと大きなファミリークローゼット、3階にベッドルームとワークスペースを配したプランになっています。

2階の床はエリアごとに異なるタイルを採用することで、それぞれの空間を緩やかに区切ります。

キッチンはカウンターをダイニングテーブルとして使用することで空間を無駄なく効率的に活用。

白を基調としたインテリアと床面のタイルが光を反射し、限られた採光条件の中でも明るさと広がりを感じられる設計です。

オーナーはアパレル関連の仕事に従事しており、衣類の管理が日常の重要な動線のひとつ。ランドリールームとファミリークローゼットを直結させることで、洗濯・収納・着替えがスムーズに行える、効率的な家事動線を実現しました。クローゼット内にはパイプとシューズシェルフも造作され、収納力と使い勝手の両立を図っています。
個と趣味を大切にした3階のしつらえ

3階のベッドルームにはペットの猫のための通り道を設けるなど、日々の暮らしの中にある小さなニーズにも丁寧に応えています。

猫の行動範囲が広がり、ストレス軽減にもつながります。

隣接するワークスペースは、ベランダとつながることで、オンとオフを自然につなぐ気持ちのよい空間に。

床材には合成材を採用し、汚れやすい作業場にも対応できる実用性の高い仕上げとしました。

水回りはグレートーンでまとめて落ち着いた雰囲気に。

もともとのスペースに合わせた造作の洗面台やモダンな印象を与えるカラー・質感のタイルの使用によって、オーナーのスタイルに合わせたスタイリッシュな空間となっています。
細やかな工夫の美学が生み出す心地よさ

「J邸」の最大の特徴は、「間(ま)」の取り方にあります。空間の余白が生む静けさ、光と影が織りなす表情、そして時間の流れを感じさせる余裕。もとある建築を活かしつつ、生活動線や家具の配置、建材のセレクトによってオーナーのライフスタイルに合わせた空間へと生まれ変わりました。
時代を超えて愛される住まいへ
1970年代の建築が持つ価値と風格を受け継ぎつつ、新しい感性と暮らしの工夫を加えた「J邸」。年月とともに深みを増しながら、住まう人の人生に寄り添う空間です。