
「人生はどの角度から見ても楽しい」株式会社Anonimo Design代表・インテリアデザイナーの黒澤哲さん
株式会社Anonimo Design(アノニモ・デザイン)代表取締役で、インテリアデザイナーの黒澤哲さん。国内外の空間づくりやプロダクト開発を行い、世界中から注目を集めています。
今回は、そんな黒澤さんにご自身のことや、代表を務める株式会社Anonimo Designのことなど、さまざまな角度からお話を伺いました。
インテリアデザイナー・黒澤哲
インテリアデザイナー、株式会社Anonimo Design(アノニモ・デザイン)代表取締役。立命館大学を卒業後、単身イタリア・フィレンツェへ渡り、デザインと建築の本場で約5年間研鑽を積む。帰国後は国内のインテリアメーカーなどで経験を積んだのち、2007年にAnonimo Designを設立。代表作「Lineview(ラインビュー)」は、繊細な糸のようなストリングスカーテンで構成される革新的なプロダクト。日本の繊細な感性とイタリアのモダンで洗練された美意識を融合させたそのデザインは、国内外の高級ホテルやレジデンスで高く評価されている。
暮らしの中で大切にしているデザイン
はじめに、黒澤さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「具体的に“これ”という物を挙げるのは難しいのですが、日々妄想したり、想像したりする時間がとても好きです。私の好きなデザイナーの方が、『デザインとは“見立てること”だ』とおっしゃっています。何か一つの物を見たり、眺めたときに、『もっとこうしたら〜』などと見立てたり、想像したり、ないものを考えるようにしていて、日々の癖のようになっていますね」
好きな場所や空間について
続いて、黒澤さんのお好きな場所や空間はどこでしょうか?
「緑や自然が好きです。最近のマイブームは、裸足になって芝生や土の上を歩くのが好きですね(笑)新鮮な気持ちになるし、気分転換にもなります」
代表を務めるAnonimo Designについて
代表を務める「Anonimo Design」では、主にどのようなプロダクトやブランドを取り扱っているのでしょうか?
「まずは、私の実家で製作している国産のストリングスカーテン『Lineview(ラインビュー)』ですね。それ以外には、海外からの輸入品も取り扱っています。例えば、カーテン用の生地や椅子張り用の生地、そしてちょっと変わったところでは、イタリア製の牛の本革を使った床材や壁材などもあります。おそらく日本で取り扱っているのは当社だけではないかと思います。」
社名「Anonimo Design」という名前には、どんな想いが込められているのでしょうか?
「“Anonimo”というのは、英語で言うと“anonymous(アノニマス)”、イタリア語やラテン語で“匿名”という意味があります。元々Anonimo Designは、イタリア人と一緒に立ち上げたデザイン事務所なんです。立ち上げ当初は、建築やインテリアのデザインをしていました。その時に私たちが感じていたのは、名前で売るのではなく、中身でアピールしたいという思いでした。若気の至りっていいますか(笑)とにかく、いいものを作り続けていこうという思いが込められています」
イタリアでデザインを学んだ黒澤さん
1999年から約5年間、イタリアのフィレンツェに住んでいたという黒澤さん。そこで建築やインテリアのデザインを学びながら、仕事もしていたそうですが、なぜイタリアだったのでしょうか?
「以前行ったこともあったので、その時の印象もあったのですが。大学を卒業したばかりの頃は、自分が何をするべきか正直よく分かっていなかったんです。そんな時に、バーテンダーとして働いていたのですが、お店ごとにバーって内装が全く違うじゃないですか。そこで初めてインテリアデザインっていうものに気づきました。そこから、“デザインを学びたい”と思うようになり、国内か海外か検討する中で、イタリアが肌に馴染みそうだったし、インテリアデザインでも先進的な国なので、イタリアに行くことにしました」
個性的で魅力的なAnonimo Designの取り扱いブランド
Anonimo Designで取り扱っているブランドはどれも個性的で、他では見られないものばかりですよね。
「そうですね。国内のメーカーさんだとチャレンジできないことが、世界を市場にしている海外のメーカーさんだと色々と試すことができるため、幅広いキャラクターの商品があるかなと思います」
ブランドを探して回るのも大変な作業ではないのではないでしょうか。常にアンテナを張っていらっしゃるのでしょうか?
「そう言いたいところなのですが、私たちみたいな仕事をしていますと、うちのブランドが1つのブランドをやっていると他のブランドの方が日本でこういうことをやっている人がいると逆に僕を探して来るんですね。『うちはこういうのをやっているんだけど、一緒にやらないか?』など、同じようなレベルの商品がだんだん集まってくるんですね。その中から組み合わせを考えて私の方で取り扱いをさせていただいています」
ミラノデザインウィークでのbud brandの会場デザイン
ミラノデザインウィークでは、去年から「bud brand(バッドブランド)」の会場デザインに協力されていますけども、どういった会場になっているのでしょうか?
「デザインウィークはミラノの街並みであちこちの地域に分かれてやっているんですけども、bud brand(バットブランド)が出ているところはトルトーナ地区といいまして、昔からデザインウィークでは盛んな地域です。その中でトルトーナ通りというメインの通りがありまして、その通りに面したギャラリーを借りてやっています。来場者も多く、bud brand(バットブランド)をやっている若いデザイナーの作品も展示されていて、それらを包み込むように盛り上げるべく、うちのストリングスカーテンのLineview(ラインビュー)を演出として掛けさせていただいています。その中には、来場者が楽しめる折り紙コーナーがあったり、触ったり、体験したり、そういうことができるブースになっていて、来場者の方が楽しめる人気なブースです」
日本のインテリアが豊かに変わるには?
海外の様々なプロダクトを日本に紹介している黒澤さん。日本のインテリアは保守的なところがあると思うんですが、インテリアが豊かになるにはどう変わるべきだと思いますか?
「私が思うには皆さんがまだ知らないことがたくさんあるのかなと思うんですね。色々選択肢を知れば、皆さん自分たちでこうしたい、ああしたいってなると思うので、まずは私たちのような人間が皆さんにもっと情報をお届けすること。そうすると皆さんも自然と多種多様に選択されると思います。今が良いとか悪いとかではなくて、もっと選択肢が増えるようになるといいのではないでしょうか」
空間の魅力を3倍にするストリングスカーテンの着想
空間を「ラグジュアリーで落ち着く居場所」に変えるデザインとして、国内外で高い評価を受けているAnonimo Designの人気プロダクトの1つストリングスカーテン。数の細い糸が垂れ下がるこのカーテンは、視線を遮りつつも光や風を通し、空間に柔らかな境界を生み出します。特徴は、全工程を日本国内で行う完全な国産品であることであり、デザインバリエーションの豊富さです。完成度の高さは大型商業施設や有名ホテル、高級メゾンの店舗でも取り扱われるほどの人気を誇っています。
そんな多くのプロフェッショナルから支持を集めているストリングスカーテンは、どういったところから着想されたのでしょうか?
「元々は、ストリングスカーテンという形自体はヨーロッパで生まれたものなんです。でも、それを“国産品”として作り始めたのが、うちの実家の工場なんです。そこから更に進化させて日本の古来の染めの技術だったり、プリントをして柄や絵を載せたり。他の国ではやっていないことをプラスしていき、バージョンアップさせて、これから海外に逆にアピールするということをやっています」
Life is beautiful.
インタビューの最後、黒澤さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is beautiful」と答えてくれました。
「人生って辛いことも嫌なこともありますけど、結果としてどの角度から見てもやっぱり楽しい。毎日が楽しくなるように日々をやっていくのもまた楽しいといいますか。イタリアの映画でも『Life is beautiful』という作品もありますが、そういう気持ちで日々取り組んでいきたいと思っております」
「人生はどの角度から見ても楽しい」株式会社Anonimo Design代表・インテリアデザイナーの黒澤哲さん
「Life is beautiful」。その言葉通りに黒澤さんのデザインは、日常の中に美しさや楽しさを見出すきっかけを与えてくれます。名前ではなく“中身”で語るものづくりを続けてきた姿勢は、今もなお進化を続けており、今後のご活躍にも目が離せません。