「使いやすさより、自分が気に入っているかどうか」アートプロデューサー・秋元雄史が大切にしているデザインや、好きな空間について

1985年10月1日に都内3番目の区立美術館として開館した練馬区立美術館。こちらの館長を務めるほか、直島アートプロジェクトなどの活動を通して人々とアートとの間を繋いできた秋元雄史さん。今回は秋元さんに、日常で大切にされているデザインやお好きな空間について伺いました。

アートプロデューサー・秋元雄史

美術評論家・アートライター 秋元雄史

1955年東京生まれ。東京藝術大学名誉教授、練馬区立美術館館長、金沢21世紀美
術館特任館長、国立台南大学栄誉教授。東京藝術大学美術学部卒業。1991 年からベ
ネッセアートサイト直島のアートプロジェクトに携わる。2007 年 4 月〜2016 年 3 月
金沢 21 世紀美術館館長。2015 年 4 月〜2021 年 3 月東京藝術大学大学美術館館長・
教授。著書には『大和書店、『アート思考』プレジデント社、『直島誕生』ディスカ
バリー21他。

自分が気に入っているかどうかが一番大切

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「自分が気に入っているかどうかが大きなポイントですね。使いやすさも大切ですが、それ以上に置いてあることで落ち着いたり、相棒のように感じられたりと、自分らしく過ごせるものが好きです。」

美術館はもちろん、自然も好き

お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「仕事も趣味も美術なので、美術館や博物館が好きです。一方でお寺や神社といった非日常感が感じられるところも好きですね。あとは山だったり、公園だったり、自然がある空間も落ち着きます。」

現代アートに通じている方なので、自然より都会の雰囲気がお好きなのかと思いました。

「東京生まれ、東京育ちなので都会も好きでしたが、年齢とともに自然が好きになりましたね。直島をはじめ、地方で仕事をする機会が増えたのも理由の一つかもしれません。都会のような人が集まっているところより、山とか自然のあるところが心地よく感じられます。」

子供の頃に父親に連れて行ってもらった展覧会がアートへの入り口

アートに目覚めたきっかけはどういったものなのでしょうか。

「子供の頃に父親が連れて行ってくれた展覧会がきっかけでアートに目覚めました。特にロートレックという近代印象派の作家の絵が記憶に残っています。彼の作品では19世紀末から20世紀頭のパリの社交界、クラブや娼婦宿、サーカスの舞台裏など市井の人の猥雑な暮らしぶりを描いていて、それが面白かったんです。」

現地で見ることに価値のあるアート作品を目指した

秋元さんも携わっていらっしゃる直島アートプロジェクトは国内のみならず海外からも注目を集めましたが、企画される際に重視したこと、意識されたことはありますか。

「直島はとにかく交通のアクセスが悪いので、そこに行かないと見ることができないアート作品を作るということに注力しました。素晴らしいアーティスト、ユニークな作家さんに作品を依頼することも大切ですが、同時にその作品が瀬戸内海の風景や人々の暮らしに結びついているかといった点も重視していました。現地に行かないと実感できないようなものをどう作るかということを意識していましたね。」

秋元さんが直島アートプロジェクトから得たものはありますか。

「文化的なことをやっていますが、最終的には人が大切だと感じました。アーティストをはじめ美術に関わる人々が自分の財産だと思います。」

アートの魅力を引き出し、人々の日常と繋ぐ

意外にも自然のある空間がお好きと話された秋元さん。世の中の流行を汲み取りながらも、自分が本当に心地が良いと思うもの、環境の中で過ごすことで、アーティストの表現を多角的に受け入れ、人々へと繋ぐ広い視点を得られるのかもしれません。

後編:「作品を絞って鑑賞するとより楽しめる」アートプロデューサー・秋元雄史に聞くアート鑑賞のポイントと練馬区立美術館の見どころについて