伝統に新たな解釈を加えたル・コルビュジエによる光と音の宗教建築「ラ・トゥーレット修道院」

リヨン郊外に建つル・コルビュジエ晩年の傑作の一つ、「ラ・トゥーレット修道院」。1950年代に設計されたドミニコ教会の修道院です。フランス中央部リヨンの近郊に位置し、リヨン市を一望する丘の上に建てられています。直線的で力強い造形が特徴で、ル・コルビュジエが生前唱えていた「建築は光のもとで繰り広げられる巧みで正確で壮麗なヴォリュームの戯れである」という考えが最も体感できる建築ではないでしょうか。

ル・コルビュジエによるダイナミックな建築

丘の斜面に設けられた建築は、中庭を囲むようにボリュームが配置され、中央に廊下が挿入されたような作りになっています。そして、それらを柱で持ち上げピロティを構成します。矩形のヴォリュームが自然に対して対比的に表現されているのがわかります。

ピロティになっている部分からは中庭に行くことができ、中庭の四方は全く違う表情の壁が取り囲んでいます。「ラ・トゥーレット修道院」の設計には、建築と数学を学び、のちに現代音楽の作曲家として活躍したヤニス・クセナキスが、ル・コルビュジエの弟子として参画しています。クセナキスは、ガラスの壁を音楽の譜に見立て、窓の格子の幅を不規則な配分とし、音楽のリズムを感じさせるようなデザインとなっています。

全体的に華奢な柱が多く、角柱や円柱の他にもカーブを描いたものも見られます。

「ロンシャンの礼拝堂」と共にル・コルビュジエ後期の代表作の「ラ・トゥーレット修道院」は、モダニズムの合理主義的な建築ではなく、直線で表現されている部分が多く、その分迫力を持った独特のダイナミックさが感じられます。

修道院は大きく分けて、公共エリア、教会、宿泊施設で構成されており、丘の斜面にピロティで持ち上げられた5階建て構造となっています。

急な斜面のため、最も高い東側は入り口とロビーが配置された3階建てとなっています。3階は「知的生活が営まれる場」、2階は「共同生活が営まれる場」、4・5階は宿泊施設があるフロアとなっています。

リズミカルで軽やかさが感じられる内部空間

左側の鮮やかな赤い扉が入口となっています。

先ほどの入り口の上部に位置する、4階と5階部分が宿泊棟になっていて客室が並んでいます。修道士のために設計された部屋は白壁の内装。部屋内部には必要な家具以外何もありません。

客室はどれもセルと言われる1人用で、ル・コルビュジエが編み出した”モデュロール”によって設計されています。

ル・コルビュジエによるシークエンスを体感できる空間

この回廊は開口部越しに中庭や建築を見ることができ、歩いているル・コルビュジエによるシークエンスを体感できる空間になっています。

リズミカルな配置の格子によって同じ回廊でも多様な場所があるような印象を受け、歩くだけで楽しめる空間となっています。

小さいチャペルに入ると外の綺麗な景色を背にミサが行われるような構造になっています。

反対側は面で少し隠しながら開口部を設けることで、明るく心地の良い空間となっています。

食堂では、自然豊かな周囲の風景を眺めながら食事を取ることができます。内側の壁は隣のチャペルと同じように適度に目隠しをしながら開口部を割付けているため、開放感が感じられるうえ、程よい落ち着きもある空間になっています。

光と造形が美しい大聖堂

「ロンシャンの礼拝堂」が曲線を使ってデザインされているのに対して、この大聖堂は直線でできていて、しかもスケールが大きいのがわかります。

直接光源を見せず、着色されたコンクリートによって彩りのある光が差し込みます。

光の取り込み方と色彩に工夫が感じられ、幾何学の組み合わせで豊かな空間となっています。

奥の礼拝堂に行くと円形のトップライトから優しく光が入る。トップライトの壁面は、白や赤に塗られていてこちらも光が美しい空間となっています。

大胆さと静寂が共存する神秘的な建築

外部も内部も「ロンシャンの礼拝堂」のような光の使い方と「ユニテ・ダビタシオン」のようなダイナミックさが同居している建築。そして「ラ・トゥーレット修道院」を実際に体験すると、シークエンスの作り方などル・コルビュジエらしさをもっとも感じられる空間となっています。

Couvent de La Tourette – ラ・トゥーレット修道院

開館時間:10:00~18:00(’日曜日14:00~17:00)
URL : https://www.couventdelatourette.fr
住所:Rte de la Tourette, 69210 Éveux, France