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「less is more」を実感する、緑豊かな ミース・ファン・デル・ローエのコートハウス

20世紀近代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエ。

ベルリン郊外に、ミースがドイツを離れる前に手がけた最後の住宅建築「レムケ邸」があることは、意外に知られていないかもしれない。

印刷会社の社長レムケ夫妻のリクエストで作られたこの家は、分厚い煉瓦の壁がL字型を描く、どっしりとした作り。

一見、ミースの典型的なスタイルとは異なる印象を受けるが、しかし室内に一歩足を踏み入れると、ヘリンボーンスタイルのフローリングに降りそそぐ光に、目を奪われる。その先には、テラスに面する大きな窓。

見渡す限りに緑が広がり、まるで東屋の中にいるような気分になる。

Photo: Gianni Plescia

less is more ー 削ぎ落とされた形から生まれる、豊かな空間。

実は、最初にミースが提案したのは、トゥーゲントハット邸のような2階建ての建物。しかしレムケ夫妻が、庭と居住スペースをより繋げた家をと熱望し、何度も設計図を引き直して、いまの形にたどり着いた。

水平の屋根を持つ平屋は、装飾的な要素が一切なく、簡素といってもいいほどに削ぎ落とされたシンプルなフォルム。

ガラス窓の枠のリズムと、レンガ壁の明るい赤色が唯一のアクセントだ。

Photo: Gianni Plescia

しかし庭から見れば、レンガの色が多彩な緑と呼応する様子が美しく、家の中から見れば、葉の影を映し、テラスの風景を様々に切り取ってくれる窓が楽しい。

無駄がないからこそ、心が落ち着き、テラスに座ってゆったりと流れる時間を味わいたくなる。

まさにミースの言う「less is more 少ない事はより豊か」が実感できる建築といえるだろう。

Photo: Gianni Plescia

自然との共生を実現する、建築とテラスのいい関係

子どもがいなかったレムケ夫妻は、庭に面した部屋は仕切ることなく、書斎などに使っていた。

デスクの上の書類からふと目を上げると、明るい空と木々が目に入るー そんな当時の様子を伝える写真も残っている。仕事もはかどりそうだ。

Photo: Gianni Plescia

南と西側の壁ほぼ全面が床から天井まで届く大きなガラス窓に覆われている。

ガラス窓の一部がドアになっていて、テラスへと段差無くつながっている。部屋の高さは280cmとそれほど高くないのだが、窓のせいか圧迫感はない。

窓を開けてテラスに出てみると、ちょうどL字型の外壁が風を遮るようになっていて、暖かく感じられる。

Photo: Gianni Plescia

2700㎡の庭は、ミースの建築のコンセプトに沿うように構成された。

低く横に長い家の形と響き合うように、柔らかに広がる芝生と花々。

テラスから伸びるクルミの木や、周囲を囲む木々のシルエットが、建築のソリッドな輪郭線を風景に馴染ませている。

家とテラス、庭が互いを引き立てあい、補い合う作りだ。

ミース・ファン・デル・ローエが思い描いていた、モダンな暮らし

1933年、レムケ邸が完成した数ヶ月後に、バウハウスはナチス政権の圧力により閉校を余儀なくされた。

校長だったミースもアメリカへ亡命。

レムケ夫妻も1945年まではこの家に住んでいたが、戦後没収され、旧東ドイツ時代は秘密警察が改装して使っていたという。

ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ再統一を経て、2002年、ミースが設計した当時のように修復。庭も当時のプランをもとに忠実に復元されている。

夫妻が使っていた家具などはもうなく、現在は区のギャラリーとして使われているこのレムケ邸。

しかし明るく広々とした空間の中に立つと、ミースが目指していた、ミニマルだけれど満ち足りたモダンな暮らしの姿が見えてくるのだ。

Villa Lemke, Mies van der Rohe Haus – レムケ邸, ミース・ファン・デル・ローエ・ハウス

開館時間 : 11:00~17:00
休館日 : 月曜日
入場料 : 無料
TEL : +49(ドイツ) 30 – 9700 0618
URL : www.miesvanderrohehaus.de
住所:Oberseestrasse 60, D-13053 Berlin, Germany

河内秀子

河内秀子

2000年からベルリン在住〜

ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』『Young Germany』などでもベルリンやドイツの情報を発信。

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