ピーター・ズントーの出世作「聖ベネディクト教会」スイスの土着的な風景に馴染む建築。

スイスのクールから電車で1時間ほど、サンヴィッツ駅を降りて40分ほど歩くと小さな村がある。ここは「アルプスの少女ハイジ」の世界に入り込んでしまったようなのどかで牧歌的な風景が広がっている。

この小さな村には、スイス出身で2009年にはプリツカー賞を受賞した建築家ピーター・ズントーが設計した教会がある。「ヴァルスの温泉施設 (Therme Vals)」と並んで彼の出世作となった「聖ベネディクト教会」だ。

ちなみに「ヴァルスの温泉施設 (Therme Vals)」があるイーランツ駅からサンヴィッツ駅は列車で30分程度と近い。

土着的な風景に馴染む独特なファサード

集落を見下ろす斜面の中腹に現れたのは、小ぶりで可愛らしいサイズの小屋のような建築。有名な建築家の教会建築としては素朴な印象である。周囲の家型の住居とは明らかに異なる楕円形に近い木の葉のような平面を持ちながら、特に主張するわけでもなくごく自然にに環境に溶け込んでいる。

スイスのこの地方の伝統的な技法と同じように、四角い小さな板状の木材を魚のウロコのように重ね合わせて貼っている。水平方向に合わせながら異なる大きさの木材が使われていて、経年変化で木材がマダラに風合いを帰るので非常におもしろい表情に仕上がっている。

ダイナミックなアルプスの山々を背景に凛とした建築が映える。経年変化によって表裏で外壁の色が異なり、ずっと昔からこの場所にあったかのような雰囲気は、土着的な風景に馴染む独特なファサードだからか。

梯子のような塔の先に鐘があったり、細く華奢な十字架だったりと教会としては主張しない建築。木の葉型の尖った方から飛び出た入り口も小さく素朴な印象だ。

素朴で凛とした静寂の空間

ウロコのような外壁とは異なり、木の軸組の向こうにステンレスの壁を貼った潔い仕上げ。重厚な内部空間が多い教会建築に対して、軽やかな印象になっている。平面の形もそうだが、建築と家具を合わせたような空間は小舟のような雰囲気である。繊細なディテールを積み重ねた空間は、素朴で凛とした静寂の場を作り上げている。

ハイサイドライトから差し込む自然光がステンレスの壁に柔らかく反射し、小さい空間ながらそれ以上の広がりを印象付けている。ペンダントライトも極力細く、主張しないようなデザイン。

祭壇も平面状変化はないが、柔らかいカーブを描く奥側に配置されている。家具も十字架などの雑貨的なアイテムもこの建築に合わせて作られている。

 

「聖ベネディクト教会」は、正当なモダニズムを踏襲しながらも土着的な伝統を建築に取り入れるピーター・ズントーの真髄を表したような建築である。昔からそこにあり、100年200年後もそこにあり続けるように佇む彼の建築は、どこか日本的な時間の経過や侘び寂びと行った概念を感じさせてくれた。

Saint Benedict Chapel – 聖ベネディクト教会

住所 : Vitg 221, 7174, Switzerland