ものつくり大学で体験。ル・コルビュジエ「カップ・マルタンの休暇小屋」原寸レプリカへのこだわり。

「カップ・マルタンの休暇小屋」とは、ル・コルビュジエが設計した海辺の小さな別荘です。妻へのプレゼントとして送られました。1957年に妻イヴォンヌに先立たれた後も、幾度となくこの小屋を訪れました。

1965年8月ル・コルビュジエは休暇小屋から程近くの海岸で、海水浴中に心臓発作のため亡くなり、奇しくもこの小さな別荘が巨匠の終の棲家となりました。数々の名作を残した一方、自らの住環境は意外なほど質素な小屋でした。

ル・コルビュジエ(1887~1965年)はスイス生まれのフランス人建築家。20世紀の近代建築に多大なる影響を与えた。その功績を称え「近代建築の父」「近代建築四大巨匠のひとり」と位置づけられている。2016年には、建築作品群17点が世界遺産に一括登録された。

出典 : Wikipedia

 

実物は南仏の避暑地リヴィエラに現存していますが、なんと日本国内でも精巧な原寸レプリカを体験することができるのです。埼玉県行田市ものつくり大学キャンパス内に再現された「カップ・マルタンの休暇小屋 原寸レプリカ」を通して、設計意図の一端をご紹介します。

小屋の外観は一見ログハウスのような佇まいをしていますが、丸太は使われていません。実際には原木の製材過程で出た端材を合板に貼り付けただけという、なんとも潔い設えをしています。周辺環境との調和を図りながらも、装飾的な側面は排除されています。目的と手段を整理し、徹底的に合理性を追求した彼の設計姿勢は、このような形でも表れています。

モデュロールに満ちた狭小空間

休暇小屋の構成は約8帖のワンルームで、天井高は2,260㎜と大変コンパクトな空間です。この2,260㎜は身長182.9㎝の大人が、手を上げたときの高さに由来しています。天井高は一様ではなく、一部2,800㎜となっています。そのため「8帖ワンルーム」の響きから受けるほどの窮屈さは感じません。

リヴィエラに建つ実物はレストランに増築されたため、写真左部の壁は見えることがありません。レプリカでは、代わりにモデュロールを表す絵画が配されています。

モデュロールとは、人体寸法・フィボナッチ数列・黄金比に基づいて作られた建築物の基準寸法のこと。ル・コルビュジエによって考案された。さらに「人体寸法に調和した普遍的な基準」とし、建築や家具および機械とさまざまな設計へ応用した。

出典 : Wikipedia

忠実再現へのこだわり

カップマルタンの休暇小屋はモデュロールに基づいた独自設計がなされています。そのため、戸・窓・家具・金具・照明器具、どれをとっても既製品を用いることが出来ません。

ものつくり大学の原寸再現プロジェクトは、パリのル・コルビュジエ財団から事前承認を得て、現地実測調査 → 設計 → 確認申請 → 施工と、実務さながらの工程を経て完成されました。驚くべきことに、ネジの一本に至るまでが学生たちの手によって、忠実に再現されています。

建設学科で作成した図面をもとに、扉や窓の蝶番、洗面器などの金属部品は製造学科で具現化されたとのことです。科を越えた柔軟な連携が、忠実な再現を可能にしています。制作にあたって作成された図面総数は220枚にものぼります。その内訳は建築24枚、家具112枚、建具54枚、金物30枚となっており、テーブル上に図面集として置かれています。見学時には実際に手に取り、その取り組みに触れることができます。

内装の多くは合板むき出しの状態で、部分的に塗料で着色されています。もちろんこれらも実物通りです。壁紙も貼られていなければ、天井照明もありません。しかしながら、不思議な居心地の良さがあります。大きさの異なる小窓、スリット窓から採り入れられた光が反射し、豊かな色彩が室内を満たしています。

 

ル・コルビュジエは、無名時代にも母へ「レマン湖の小さな家」を送っています。彼にとって「最小限住居」とは、生涯を通したテーマだったのかもしれません。晩年はこの小屋で、どのような光を見つめながら過ごしたのでしょうか。

ものつくり大学 ― カップ・マルタンの休暇小屋 原寸レプリカ

【一般公開について】

外観は随時見学可能です。内部見学はオープンキャンパス開催時、またはメールでの事前予約が必要です。
参考:http://www.iot.ac.jp/cgi-bin/information/detail.cgi?id=822