北欧モダニズムを支えたフィン・ユールの自邸。デンマークの自然と溶け込む建築とインテリア。

デンマークの首都コペンハーゲンの郊外にあるオードロップゴー美術館。ザハ・ハディドの設計の新館が話題になっているが、同じ敷地内にもう一つ、アルネ・ヤコブセンやハンス・J・ウェグナーたちと共に北欧モダニズムを支えた家具デザイナー・建築家のフィン・ユールの自邸がある。

デンマークの王立芸術アカデミーで学んだフィン・ユールは、建築家ウィルヘルム・ラオリッツェンの元で働いた後に独立。動物をモチーフにした彫刻のような造形の家具デザインで評価された。代表作の「Easy Chair No.45」など北欧家具として完成度の高い作品を世に送り出した。

オープンな空間の画期的なフィン・ユール邸

建てられた当時フィン・ユール自身は30歳。1989年、77歳で亡くなるまで住んでいたこの自邸は、彼の作品を展示した美術館のよう。また、家具や本、雑貨などが当時のまま残されていてフィンユールのイメージした北欧の暮らし方を感じることができる。

200平米のL字型プランの平屋建てで、当時のヨーロッパとしては珍しく、画期的な仕切りのないオープンな空間は開放的だ。リビング・書斎・応接室が繋がる空間と、接続する多様な諸室がユニークな室内風景を作り出し、L字の奥に続く空間やドア越しに望む隣の部屋など、それぞれの関係性が緻密にデザインされている。本棚などが建築と一体となるデザインとなっていて、彫刻的で有機的な家具デザインにより空間が映える住宅だ。

デンマークの自然と溶け込む建築とインテリア

芝生の青い広い庭に対して大きく開いた窓が特徴的な外観からわかる通り、デンマークの自然を意識した住宅になっている。

庭と周囲の森から差し込む自然光が明るく印象的な空間を作り出す。さらに天井が黄色のようなベージュで塗られていて、入って来た光を柔らかく反射し、それがより魅力的な空間を演出している。

どこにいても自然に大きな開口と向き合い、自然と対峙するような構成は古来の日本の空間作りにも通じるところがある。ここでも棚や机など固定する家具は建築に上手くインテグレートされているため、椅子など動きのある有機的なデザインの家具がより美しく感じる。エントランスを入ってすぐの書斎には、フィン・ユール自身によって製作されたアート作品もある。

空間構成がおもしろいガーデンルーム

多くの人にとって、フィン・ユール邸で最も印象的な空間がこのガーデンルームだろう。階段とそこにインテグレートされたソファ、その背後の植栽とその空間構成がおもしろい。大きな窓からは庭と森の様子が伺え、緑と青の鮮やかさが際立つ。この建築の魅力が凝縮されたような場所である。この場所で静かに過ごすと気持ち良さそうだ。

 

北欧デザインの中でもフィン・ユール邸は、どことなく親近感を覚えざるを得ない。フィン・ユール邸からは北欧デザインの良さももちろん感じるが、外部空間との連続性や自然との距離感、諸室の関係性など随所に日本の伝統的な建築の影響がみられるからだ。さらに、豊かな自然との共存など、北欧と日本では共通する美意識が存在することも考えられるだろう。

そんな日本と近しい北欧デザインの豊かさが詰まったフィンユール邸から、空間構成や家具デザインだけでなくその暮らし方も学ぶところは多い。

Finn Juhls Hus – フィンユール邸

開館時間 : 11:00~16:45(土日のみ)
電話 : +45 39 64 11 83
URL : http://ordrupgaard.dk/finn-juhls-hus/
住所 : Kratvænget 15, 2920 Charlottenlund, Denmark

岐阜県高山には日本の北欧家具メーカー「キタニ」が建設したフィン・ユール邸もある。

参考 : http://www.kitani-g.co.jp/theme173.html