「casa nord」の建築家、五十嵐淳氏インタビュー。「いかに快楽的な空間の関係性を作れるか」

「北の知恵」という意味が込められている「casa nord」。「nord」とはイタリア語で「北」を表します。日本でも最も厳しい寒さを記録する北海道では、-20℃の気候になることも珍しくありません。

そんな環境でも快適に住むためには、本州や九州とは比べ物にならないほどの高い性能が求められます。

シビアな環境で育まれてきた住まいの知恵をふんだんに活かした、-20℃でも快適な住まいを設計デザインした、北海道を活動拠点とする建築家、五十嵐淳氏にお話をお聞きしました。

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【建築家:プロフィール】
1970年 北海道生まれ。’97年に五十嵐淳建築設計事務所を設立。2004年大阪現代演劇祭仮設劇場コンペ最優秀賞。’05年BARBARA CAPPOCHINビエンナーレ国際建築賞グランプリ、’10年第21回JIA新人賞、’11年JIA日本建築家協会北海道支部住宅部会大賞ほか。現在は名古屋工業大学の非常勤講師も務める。今年、第二回目が行われた「「HOUSE VISION 2」にも出展、「窓」を壁の開口部と考えるのをやめ、そこに新しい機能を仮想した、新しい空間の可能性を提案。

 

カーサプロジェクトとの出会いのきっかけは「カーサ・ナチュレ」という住宅を手がけたことがきっかけだったそう。「ハウスメーカーの企画住宅の中で、自分はどういう事ができるだろう?」と思い、高性能なハイスペックな住宅をつくった五十嵐氏。

コストと機能を求めるとどうしても価格は上がる、企画住宅の難しさを感じたそう。

しばらくして「北海道でFPホームが企画住宅を作りたいのですが設計できる若い人はいませんか?」という連絡を受けて、「僕やりますよ」とOKしたのが今回のカーサノルドの設計の始まりだったそう。

ーその連絡がカーサ・ノルドだったんですか?

そうです。断熱材の形と窓のデザインを考えていただきたい、FPの家という断熱パネルをやっている会社で、北海道ではポピュラーな会社でCMの歌も流れてるんです。「FPの家を見に行こう♪」という。僕もその会社を知ってたし、その工務店も知っていたので、パネル割りずけや外観を考えて行ってというのが流れです。

r_csnr_003casa nord(カーサ・ノルド)

ー最近の五十嵐さんの作品を拝見して、住宅の中の真ん中の柱と入れ地になるところが、風除湿や凍結深度といったキーワードが空間を生かすポイントみたいになるのが、五十嵐さんらしさのように感じますがその辺りはいかがでしょうか?

らしさとかほとんど考えてなくて、ハウスメーカーや工務店の現場ってスムーズに立てられるものがよくって、現場の仕組みみたいなものをベースに設計しました。

あとは間取りですね。リビング・ダイニングキッチンていうのはそんなに年をとっても変わらないけど、二階の間取りってかわりますよね。子供がいなくなったら持て余してしまう部屋とか。

間取りを変えると大ががりなリフォームになってしまいますし、構造上、壁取り払うとなるとそこに耐力がかかるので負荷がかかってしまう。

厳しい環境の中、何十年もローンを組んで老後も対応できない家ではなく、そんな問題に対応できるような少しでも貢献できる住宅を作りたかった。

真ん中に柱があるという事は、そこだけ抜かなければいい。二階に上がったところホールがあると間取り変更が効きやすい。そんな意図でつくりました。

_MG_3690五十嵐氏設計のファーム富田の「Signal Barn」

ー五十嵐さんにとって「構造の柱」のような全体の空間をつくるキーワードはどんな事ですか?

最近では外の空間との関係性を強く意識してます。外の空間とどう「快楽(心地よさ)的な空間の関係性を作れるか」「内外の空間の関係性がわからなくなるくらいのもの」というか、でもそれって新しい視点でもなんでもなくって建築を作る人って景観作りにみんなジレンマは持ってると思う。

気持ちがいい自然環境・気持ちがいい気候だったら室内はいらなくなるでしょ、でも建築家は室内をつくらなきゃいけない。室内って本当の室内を作りたくなんじゃないかなって?

そこはみんな苦労してるんじゃないかな?

r_csnr_007casa nord(カーサ・ノルド)内観/中央の柱が豊かな空間を作り出している。

ー外と中を曖昧にするような感じですよね。北海道の北というと、工業建築が主体というイメージですが、そういった環境の中でユニークな発想はどうやって生まれるのでしょうか?

建築は、数値目標みたいなものだけではないと思っています。

例えば、スリランカのジェフリー・バワという建築家がいますが、彼の評価はスリランカの気候に合わせたというより、美意識というかデザインがまずいい。

暑くて湿度の高い環境の中、快楽(心地よさ)を求めていったらああなったみたいな。僕もそういうところは意識してます。

短い夏をどう快適に過ごすか、そういう建築を目指していったほうがみんなハッピーなんじゃないかとお思う。

数値目標ばっかりにふれちゃって、数値を考えてない建築は悪だっていう風潮はおかしいのかな?って。国がハイスペックの基準を設けてしまうと、専門家以外はそれが当たり前だと思ってしまう。贅沢基準が上がれば資材やエネルギーの投入をしなければならなくなる。
数値ではなくて、みんな快楽(心地よさ)のために生きる。その場所場所に対応するのが建築だと思う。

ーありがとうございました。

シビアな環境でも快適な暮らしを目指す「casa nord」。そこには、数値だけを基準とした家つくりではなく、住む人が「心地よい・快適」と感じる〝快楽″を追求した住まいずくりにあった。